グラミン銀行のマイクロファイナンス制度
マイクロファイナンスの代名詞とも言える存在が、1983年にバングラディシュで設立されたグラミン銀行です。創始者であるムハマド・ユヌス氏が、2006年にノーベル平和賞を受賞したことで、日本でも一躍有名になりました。
インドの東に位置するバングラディシュは、一人当たりのGNIが約500ドルと、世界で最も貧しい国の1つです。1億5千万人以上の人口を抱えるも、その多くが絶対的貧困に苦しんでいる国です。その貧困を無くすべく立ち上がったのが、バングラディシュのチッタゴン大学・経済学部長であったムハマド・ユヌスです。
ユヌスは、貧困は本人達の問題ではなく、政治や社会によって生み出されたものだと述べています。しかし同時に、単なる施しでは貧困層が堕落するだけであり、彼らが意欲的に生きていける為のシステムが必要だと考えました。
この理想を追求した形が、グラミン銀行の設立と、同行による貧困層への小口融資=マイクロファイナンスでした。
グラミン銀行の融資制度 |
活動国 |
バングラディシュ |
担保の有無 |
無担保融資 |
連帯責任 |
5人のグループに順番に融資。
一人が返済しないと次の人は融資を受けられない |
融資金額 |
平均2万3千タカ(約3.5万円) |
金利 |
平均20% (但しインフレ率も10%前後ある) |
貸し倒れ率 |
1.78% |
問い合わせ先 |
GRAMEEN
Bank (英語) |
グラミン銀行の融資は、主に5人一組のグループを組ませます。グループは同一地域の人間で構成され、97%が女性です。そしてグループで一人ずつ順番に融資され、一人が返済を終えないと、次の人は融資を受けられません。つまり、グループで連帯責任は負いますが、債務を肩代わりする「連帯保証」ではありません。
この連帯責任制が、無担保融資にも関わらず高い返済率(=低い貸し倒れ率)を記録する理由です。貧困層のほとんどが農村の村社会で生活しているので、仲間に迷惑を掛けては生きていけない・・・というプレッシャーが、返済意欲の源泉となるのです。グラミン銀行の貸し倒れ率は、筆者の参照した書籍(※注)では1.78%とありましたが、2009年にユヌスが来日した際には、貸し倒れ率は0.5%を切っていると述べています。
貸出金利は20%と一見高そうに見えますが、バングラディシュではインフレ率も10%近くあるので、額面ほど負担は大きくありません(詳しくはマイクロファイナンスは決して高金利ではないにて)。また、一般の貸出金利は20%ですが、教育ローンは無利息で行うなど、貧困層に配慮した制度も備えています。
慈善団体では無い理由
勘違いしている人も多いですが、グラミン銀行は営利目的を放棄した「慈善事業団体」ではありません。貧困層を救うという社会貢献が前提にありますが、同時に一般の銀行と同じように、利益を出すべく運営されています。
この理由は主に3つあり、一つは事業の永続性を考えた上で運営していることです。マイクロファイナンスの場合、満足な教育を受けていない貧困層が相手ですから、細かな指導・アドバイスが不可欠です。また借り手の多くが、交通・通信などが不便な田舎に住んでいます。以上のことから、マイクロファイナンスでは、人手やコストが一般のローンよりも多くかかります。故にグラミン銀行自身が、しっかり金利を取って利益を上げ、高いコストを吸収していかなければ、継続的な事業が行えないのです。
二つめの理由は、NPOのような非営利法人にした場合だと、融資の元手となる資金繰りで、様々な制約が出てくるからです。これが銀行の形式だと、株式や社債を発行することで資金を集めたり、預金を元手に融資を行うなど、自由度が高まります。実際に現在のグラミン銀行は、資本の94%が借り手の預金(借り手が得た利益を預金に回す)で賄われるまでに成長しています。
3つめに、しっかりと利息を取って銀行が利益を上げることで、借り手である貧困層に、資本主義経済の仕組みを体感させ、その中で生きていく必要があることを理解させる意味もあります。援助で貧困が無くならない理由でも書いていますが、利益を取らない完全な慈善事業だと、援助される側に甘えが生まれたり、その制度を利用して賄賂などの中間搾取が横行します。
貧困の連鎖を断ち切る為には、彼らが自発的に経済活動を行い、自分の力で貧困から抜け出す「意欲」を持たせることが不可欠です。その為には、援助で甘えさせるのではなく、資本主義経済の仕組みの中で彼らを自立させる必要があるのです。
※注:参照「マイクロファイナンスのすすめ(著者:菅正広、東洋経済新報社)」
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